#3FUJITEC 
THANK YOU 
EPISODE

感謝の言葉でよみがえる、エスカレータの思い出

フジテック社員から寄せられた、お客さまや利用者さま、協力会社さま、そして仲間との「感謝」でつながるエピソードを紹介する「フジテックありがとうエピソード」。今回は28年前、大阪でフジテック初の車椅子仕様エスカレータの据付(設置)工事に携わった九州支店 宮崎営業所のM.N.さんが振り返ります。

1995年、私がエスカレータの新設工事に従事していた当時のことになります。その年の夏、大阪市営地下鉄の西田辺駅に車椅子仕様の上りエスカレータ(現在は生産しておりません)の初号機を設置する担当になりました。
車椅子仕様は初めてなので、事前に開発担当者から「車椅子専用ステップの調整は1週間ほどかかりますよ」と聞いていましたが、当時の標準型エスカレータでのステップの調整は半日ほどだったので「そんなにかかるのだろうか」と思っていました。ところがいざ工事をはじめると、車椅子専用ステップを低速運転しながらの調整や確認箇所が非常に多く、工事完了検査直前まで時間がかかる可能性が出てきました。

車椅子専用ステップの確認や調整は内部部品とのクリアランス(ゆとり)や動きを全域にわたって細かく行います。その都度、一度運転を止めてエスカレータの中にもぐって確認する必要があり、さらに超低速から定格速度まで順次速度を段階的に上げて確認するため、とても時間がかかります。またクリアランスは狭いところで数ミリと非常に厳密なため、確認は慎重を期しました。

工事完了検査まで時間がない中、急な増員もできないため時間との戦いで体力的にも大変でしたが、開発担当者が仕事の合間をぬって現場に駆けつけ指導してくれました。また、当時の上司や、工事完了検査の際に立ち会った確認・進捗担当者が、大変な工事であることを踏まえ、気遣っていただいたことが支えになりました。

そして無事に工事完了検査を終え、駅員の方に取り扱いの説明をお伝えすると「よくできていますね。今までは電動車椅子は重量があるので数人で担いで上げていましたが、これで楽になります」と喜んでいただけて、大きな達成感がありました。
その後、エスカレータ稼働開始の立ち合いをしていた時のことです。エスカレータを使おうとされた女性の方から「私は膝が痛いから階段がきつくて、これができて本当に助かるわ。ありがとうね」と感謝の言葉をいただきました。

ただ続けて「私ら膝が悪いもんは、階段を上るよりも下るほうがきついんよ」と上昇運転しているエスカレータを見ておっしゃいました。
苦労の後に利用者さまに直接感謝の言葉をいただいたので大変嬉しく、同時に、階段は下りのほうがきついということも初めて知りました。当時はなかなか想像できなかったのですが、私もそのつらさがわかる年齢になり、車椅子だけでなくバリアフリーにおける当社商品の意義をあらためて実感しています。

自分でも納得できる仕事をすること、理由をつけて諦めないことを大切にしています。それは感謝の有無で変わることはありません。
その一方で、苦労した設置工事に感謝の言葉をいただいた喜びと、私たちの仕事の重要性を再認識させていただいたこと、その二つが合わさったことで、あの時の利用者さまとのやりとりが今も深く印象に残っています。

今回のエピソードを語ってくれた方

フィールドエンジニア(施工管理)
M.N.さん

編集後記

長年エスカレータ据付工事の最前線で活躍されたM.N.さん。インタビュー中は終始にこやかに、時折ユーモアを交えながらお話されつつも、プロフェッショナルとしての仕事に対する誇りが強く伝わってきました。
「利用者さまの安全性は特に大切にしています。自分の身内も利用すると思えば、おのずと安全を考えることになります」(M.N.さん)
M.N.さんはその後事務職を経て、現在は宮崎営業所で確認・進捗担当として再び現場に立ち、若手への教育も行っています。
「経験のない方には納得できるように話しますが、ある程度経験のある方には、細かく言うことはせず、私の行動を通じて気づいてもらえるように促しています。私たちも先輩に教わりながら自分で工夫していったので、相手の考えを尊重しつつ『こういうやり方もあるんだな』と感じてもらうことを大切にしています」(M.N.さん)
“安全・安心”を何よりも大切にしながら、一人ひとりの個性も尊重する。M.N.さんのインタビューは、まさにそんなフジテックらしさを感じる時間になりました。